G-SHOCKと喉頭懸垂機構のお話
◾️目次:G-SHOCKと喉頭懸垂機構のお話
1. G-SHOCKと喉頭は似ている?!
先日、テレビでCASIOの「G-SHOCK」の開発物語が放送されていました。
その頑丈な時計の構造を聞いて私は、喉頭懸垂機構に似ているなぁと思ったのです。
「落としても壊れない丈夫な時計」の開発を始めた伊部菊雄さんは、開発期間として充てられた2年が近づき、もうあきらめかけていたそのとき、ふと公園でボール遊びをしている子供を眺めていてG-SHOCKの構造をひらめいたそうです。
「ボールの中に時計が浮かんでいる絵が頭の中に浮かんできて、腕時計の心臓部であるモジュールをゴムパッキンの点で支えることで、ケース内で浮遊させる中空構造の発想が生まれた」そうです。
(出展:https://newswitch.jp/p/20017)
(このG-SHOCK開発の物語はとっても面白いのでぜひ調べてみてください。)
この「浮遊している」というのが「喉頭」と同じだと私は感じました。
喉頭とは甲状軟骨と輪状軟骨をはじめとする軟骨群ですが、人間の体の中でも特殊な部分で、他の骨や軟骨に一切接しておらず、つまり宙ぶらりん、浮かんでいるのです。
厳密に言いますと、本当にラピュタのように単体で空中をプカプカ浮遊しているのではないですが、四方八方からの筋肉に引っ張られ吊るされているという状態です。
(出展:『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ』フレデリック・フースラー、イヴォンヌ・ロッド・マーリング著)
この喉頭が筋肉に吊るされている状態、「喉頭懸垂機構」を発見したとしてフレデリック・フースラーは有名ですが、
なぜ喉頭懸垂機構が大事なのか、ひいてはなぜ私はアンザッツをボイストレーニングの要としてみなさんにお伝えしているのかを今回は考えていこうと思います。
2. 喉頭は声帯の家
喉頭は「声帯」の「家」です。
家の中にいる「人」が「声帯」だと想像してください。
その家が下の図のように四方八方から支えられており、エレベーターのように上に行ったり下に行ったりできるのをイメージしてください。
私たちは何気なく話たり歌ったりしているときにこの「家」はすごく動いています。
ただビルのエレベーターのように安定して上へ下へ移動してくれれば何の問題もないのですが、
大抵の人の場合、ガタガタと思いがけず不規則に揺れてしまっているのです。
言い換えると、「地震が起きている」みたいなものです。
地震が起きたとき、家の中にいるみなさんはびっくりしませんか?
大きな揺れだった場合、立っていられなくなることもあると思います。
上記で家の中に住む人を「声帯」とすると言いました。
家(喉頭)が揺れると中にいる人(声帯)にも影響が出ます。
これが発声がうまくいかない原因ですね。
逆を言えば、「家」(喉頭)が安定すれば、中の人(声帯)は寝そべろうが踊り狂おうが何でもOK、快適に過ごせるわけです。
つまりどんな発声でもできるのです。
私たちがどんなに暴れようが家はぶっ壊れることはないですよね。それは家が頑丈な作りだからです。
発声もそのように考えてください。声帯の家である喉頭を支えている「喉頭懸垂機構」を強靭なものにする必要があります。
(強靭というと固いとイメージしてしまうかもしれませんが、柔軟性のある筋肉によって均整が保たれる、とイメージしていただきたいです。)
3. 喉頭を安定させる
ということで、声帯の家である「喉頭が安定している」ということが発声においてとっても大事なのです。
私はこの大切さを身をもって体感しているため、アンザッツをみなさんにお伝えしています。
話は戻りますが、この「喉頭が安定している」というのを実現するのに活躍するのが、喉頭を周りから支えている四方八方の筋肉たちなのです。
この子たちの能力をぐんぐん鍛えて、いつでもバランスよく家が上へ行こうが下へ行こうが安定していられるようにするのが発声訓練です。
例えば、普段話している声の高さを変えて話すと疲れませんか?すぐ普段の声に戻したいですよね。
これは喉頭がバランスのとりづらい場所にあって、余計なところに負荷がかかったり余分に声帯が頑張りすぎてしまったり逆に頑張れなかったりする居心地の悪さに原因があるわけです。
繰り返しますが、大切なのは、喉頭がいつもバランスよく安定していることです。
家が揺れたり傾いてはダメなのです。中に住む人(声帯)も影響を受けてしまいます。
ただ、四方八方の筋肉のどれか一つが頑張ってもダメなんです。
みんな仲良く働いて、丁度いい強さで引っ張り合いが起こり、喉頭が不必要な動きをすることなくスムーズに平行移動するようなイメージです。
これを実現するために、アンザッツは1,2,3a,(3b),4,5,6という色々な声を出して喉頭を上方へ下方へ動かし鍛えるのです。
想像してみてください。
アーティストの方々は、ライブ中ダンスをしたり動き回っていますよね。
ずっとまっすぐ立っている人も少ないと思います。それでも声が揺れたり乱れずに歌っていますよね。
首が横を向いたり、手を振ったり走ったり、体を動かしたとしても、中にある喉頭は影響を受けずに歌い続けられる、これこそ喉頭がプカプカと吊るされ動きやすい柔軟な状態にあるからこそできることなのでないでしょうか。
G-SHOCKが外からの衝撃を吸収する構造と似ていませんか?
(あくまで私個人の意見です。)
4. まとめ
多くの人が、喉頭懸垂機構は脆弱な状態にあります。私もまだまだ再生途中です。
なぜならほとんど動かさずとも声は出るし私たちは生きていけるからです。
ただその未使用の筋肉を再び目覚めさせることに、「発声」を真に見つめるヒントがあると私は思うのです。
私がフースラーやその研究の第一人者である武田梵声先生のボイストレーニングをお伝えしているのかというと、
「良い発声」などという狭い範疇ではなく、もっと広い射程をもって「声」の可能性というものを捉えていらっしゃるからにあります。
こういう話をすると、そんな大げさなことはいいから〜と敬遠される方も多いと思います。
私は正直、どんなメソッド、発声練習でもいいと思っています。
みんな「声を解放したい」という目標は一緒だと思うからです。
ただ偏ることなくいろんな声と戯れてほしいのです。
世界中の音楽を聴くと、「良い発声」とかそんなことはどうでもよくなります。(ぜひいろんな音楽に触れてください!)
2020年は歴史に残る未曾有の事態となっています。
ボイストレーニングも音楽も、そもそも声を出すこと自体これからどうなっていくのでしょうか。
技術革新がもっと進んでいくのだと思いますが、「声」に関してやれることはまだしばらくは変わらないかなと思っています。
たっくさん声出して歌える日を想像して、今日も訓練です!!